妖怪切手ぺろ舐めの苦悩

この間、仕事で郵便を出す機会があった。

郵便を出す、なんて言っても大したことはしない。宛先を書き、切手を貼るだけである。

ところが、この「切手を貼る」という作業に差しかかろうと思った時、ふと手が止まった。

「舐めて貼っていいのだろうか…」

ここまでの人生で切手を貼るという作業は100回もしていないと思うが、その全ての切手を舐めることによって貼り付けていた。今までそれに何も疑問を感じていなかった。しかし今回、切手を舐めて貼るという行為に脳がストップをかけたのだ。

理由は二つある。一つは仕事で送る郵便であるということ。受け取る人にとっては切手が舐めてあろうがなかろうが、その有無を知る術はない。ただ、仕事でできるだけミスをしたくない。仕事上で送る郵便の切手を舐めるという行為がもしかすると「アウト」なのでは?と思ってしまったのだ。ビジネス書にも書いてあるかもしれない。「切手を舐める人は出世しない」と。

もう一つの理由、これが主な原因だが職場で舌を出して舐める行為がちょっと馬鹿っぽくないか?という不安を感じたからである。いつの日にか書いたが「他人は自分が思うほど自分を見ていない」と思っていてもどうしても気になってしまう性分なので、果たしてこの行為が許されるのだろうかと不安になってしまったのだ。ペロンと切手を舐めた後に「今、切手をつけるために仕方なくやったことですよ」と言わんばかりのキリッとした表情をしたとして、挽回出来るのだろうか。舐めた時点で僕はもう「妖怪切手ぺろ舐め」なのだ。

こんなことを考えてしまい、本当に手が止まってしまった。ただ、貼らないわけにはいかない。切手も満足に貼れない無能男、と思われる方がよっぽど嫌だ。結局、ティッシュを一枚給湯室に持って行き、湿らせてから切手にポンポンと押し付けて貼ることにした。しかし、水をつけすぎたのか切手が予想外にふにゃふにゃになってしまった。幸い中の封入物は濡れなかったが、机を少し濡らしてしまった。ミスをしたくないという気持ちのせいで結果的にミスをしてしまった。机を拭いている時に「自分に足りないのは人目を気にしない心の強さだ」と痛感した。書いていて思ったが普通に糊で貼り付ければよかった。

 

ところで切手を一枚舐めることにより2キロカロリー摂取できるらしい。100枚舐めると200キロカロリー。カロリーメイト2本分だ。お腹が空いたけど食べるものがなく、代わりに山のように切手がある人にはオススメである。