地球人には無い発想

高校生の頃の話である。

その日は何かの都合で授業がなくなり、自習となった。と、言っても集中している人は少なく、各自話したり、寝たり、好きなように過ごしていた。先生がいないのでほぼ無法地帯である。

すると、クラスの中でもひときわ声の大きいTくんがこう叫んだ。

 

「電子レンジってのは宇宙人が作ったんだよ!!」

 

騒がしかったクラスもその一言でしんと静まり返った。まるで演説のように、彼の話は続く。

 

「電子レンジっていうのは電波で温めるじゃん!?そんなスーパーテクノロジー、地球人には思いつかないんだよ!最近、蒸気が出て温めるレンジが出てるけど、あれが人類の限界なんだ!!」

 

……電子レンジも蒸気で温めるレンジもおそらく人類が作った。だが、彼には電子レンジのスーパーテクノロジーが宇宙人からの贈り物に思えたのだろう。

確かに、僕も電子レンジの仕組みを詳しくは知らない。箱の中に料理を入れると謎の電波とか電子とかがが出て温かくなるという、当たり前のことも、何故そうなるの?と聞かれれば説明できない。僕の頭が足りていないというのもあるが。

 

「じゃあ宇宙人は地球にいるのかよ〜」

 

と誰かが言った。するとTくんはすぐさまこう答えた。

 

「原宿とかにさ、すっごい奇抜なファッションの人いるじゃん!?あの人たちは全員宇宙人なんだよ!地球人とは違うセンスをしてるから、あんな奇抜な服を着てるに違いない!!」

 

いや、その人たちも地球人だ。厳密に言えば、「他の地球人には思いつかないような奇抜なアイデアを持った地球人の作った服を着た地球人」だ。

それにTくんよ、宇宙人が地球にいるとして、「私は宇宙人です!」と言わんばかりの格好をするだろうか?たぶんしない。

 

だが、もしかしたら本当にTくんの言うように電子レンジを作ったのは奇抜なファッションをした宇宙人なのかもしれない。どちらも地球人の僕には、仕組みもセンスも思いつかないからだ。

この世の中には「どうしてこんなものを思いついたのだろう?」と不思議に感じるものがたくさんある。そのうちのどれか一つが本当に宇宙人の考えたものであっても驚きはしない。……嘘である。普通に驚く。

ともかく彼の言うことが正しいのなら、こうしていつも温かい料理が食べられるのも、アバンギャルドでエキセントリックな服が着られるのも、すべては宇宙人のお陰である。感謝したい。

 

…ちなみに、この話がずっと忘れられず、大学生のころ「地球に住んでいる宇宙人たちのファッションスナップ」というテーマでイラストを描き、一冊のZINE(自分で印刷、製本までした冊子のこと)を作った。

このアイデアをくれたのは、他でもないTくんだ。感謝したい。

あんなことを思いついた彼こそ、もしかしたら宇宙人だったのかもしれない。

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