会社でカプリコ食べる人、いる?

私事だが、去年の冬ごろに転職をした。

転職というのはとてつもなく大きなエネルギーが動く。そのエネルギー活動は勤務地が変わることによる位置エネルギーの変化と、職務内容が変わる運動エネルギーによって起こされる。位置エネルギーと運動エネルギーってこういう時に使う言葉ではないけれども。ともかく、身の回りの環境がガラリと変わるのだ。

 

それで言うと、一番とは言わないが個人的に大きな変化だと思うのは「オフィスグリコの有無」だ。オフィスグリコ。会社にある人も多いかもしれない。社内の一角にお菓子などが詰められた箱があり、100円を入れると好きなお菓子を持っていける。昔畑の横にあった野菜の無人販売のようなものだ。畑がオフィスに、野菜がお菓子になっただけである。

 

前の職場にはオフィスグリコなんてものはなかったので、小腹が空いた場合の対処法は一つしかなかった。「我慢」である。そのため、昼休憩になるといつも以上に食い溜めをしておかなければならなかった。(まあ、よくトイレに行くふりをしてコンビニでおにぎりを急いで食べていたりもしたが…)

しかし、このオフィスグリコが社内に置かれているということはどういうことか。いつでも社内飲食OKということである(論理が飛躍している気がするが無視する)。つまり、小腹が空いたものなら、100円と引き換えにお菓子を買えばよい。ありがたいことである。ちょっとしたオアシスである。

 

とは言え、今の会社に入りたての時はオフィスグリコを使うことに抵抗があった。仕事中にお菓子を食べてもいいのか?とかそういう懸念もあったが、新参者がいきなりお菓子をボリボリ貪っていたら厚顔無恥な野郎だと思うのではないか…という恐怖があったのだ。相変わらず人目が気になってしまうので、しばらくはオフィスグリコに後ろ髪を引かれながら過ごしていた。が、今は仕事にも慣れ、小腹が空けばお菓子を貪る日々だ。あと、わざわざエレベーターに乗り、下のコンビニに行くよりよっぽど効率が良い。

 

オフィスグリコで最も重要であろう点は、中に入っているお菓子の内容だ。基本的には片手で食べられるような軽いものが多い。チョコレートしかり、豆しかり、ビスケットしかり。だが、具体的に何のお菓子が入るのかは隔週で補充に来るグリコさんに委ねられる。もちろんある程度、売れ筋などは反映してくれるのだろうが、結局のところグリコさんのセンスで選ばれている。だからごくごくたまに社内で「今回のオフィスグリコはセンスがねえなあ」と心無い言葉が聞こえることがある。ちなみにその時は僕が好きなチョコビスケットがなく、代わりにチョコがカフェオレ味になったビスケットが入っていた。センスがない。が、基本的に僕は文句を言わず、まるでクリスマスにプレゼントを待つ子供のように、毎回来る補充を楽しみにしている。

 

そんな中で、一つだけ、一つだけ物申したいことがある。本当に一つだけだ。

 

「会社でカプリコ食べる人、いる?」

 

これだ。これだけ言いたい。

カプリコとは…なんて言えばいいのだろう…ご存知だとは思うが、コーンのアイスのアイスの部分がチョコレートになっているお菓子だ。うちのオフィスグリコには毎回二つほど、このカプリコが入っている。

想像してほしい。大の大人がだ、いくら社内でお菓子を食べてもいいという空気だとして、仕事中にカプリコにかじりついていいのだろうか。カプリコにかじりつきながら仕事の話をされてもまったく聞いてくれないだろう。何故か?カプリコをかじっているからである。

 

毎回オフィスグリコを買うたび、奥の方にひっそりといるカプリコと目が合う気がする。違う、お前を食べるのは俺じゃない。だからそんな目で見るな。お前は社内で誰にも相手にされることない。だから回収され、新しい場所に行くべきだ。少なくともお前のいる場所はオフィスじゃない。と思いながら別のお菓子を買う。

 

カプリコにふさわしい場所とはどこか。それはオフィスのようにせわしなく人が働いているようなオンタイムの場所ではない。仕事が終わり、家路につき、誰も見ていないところで思いっきりかじる。オフタイムの場所でこそ輝く。カプリコはそんな場所の方がふさわしい。

 

冒頭にも書いたが、転職というのはものすごいエネルギーが動く。故に今までとは違う心労があるし、生活の環境も一気に変わる。ただ、少なくとも前の場所よりも環境は良くなっていると思う。やりがいもある、楽しい仕事場だ。しかし、いくらやりがいがあるとは言え、疲れることは疲れる。カプリコの本当の仕事は、忙しいさなかに短時間で腹を満たすようなことではなく、そんな日々の疲れをゆっくり癒してくれるようなことなのだ。

 

人はそれを「ごほうび」と呼ぶ。